■ 読んで損のない読み物


・麻薬取締官の捜査手順とは?

 世間一般に知られているようで意外に網羅されていない麻薬取締官(以下、麻取)のお仕事。所詮は縦割り仕事と言っても、その捜査手順の詳細に関して詳しい人間はあまりいないのが現実。
「そんなものは一回捕まってしまえば理解できる」というピュアな方もいるかも知れませんが、世の中そんなに甘いものではありません。麻取だって自前捜査の手法には色々なレパートリーを用意しているわけで、仮に一度大きな捜査で犯人を捕えたとしても、その時に用いた捜査手法が彼らの全てだと思うのは早計。愚の骨頂です。
 …と言うのも、麻薬の売人というのはいつの時代も時世の流れに便乗することで暗躍する隙間犯罪のようなもので、それを取り締まる側が1つの手法に執着しているようでは能率が悪すぎるわけです。もちろん、これは麻取だけに該当することではなく、捜査1課から生活保安課、果ては交通課に至るまで共通して言えること。
 しかし、警察の検挙率が実質2割を下回るような昨今では、組織全体が東スポ化しているのか、漫画のような幼稚な事件の犯人を検挙するのに数ヶ月もかかったり、一人の密入国者を追いかける余り100人規模の不法入国を許してしまったりといった、突込みどころ満載な組織と成り下がってしまっています。
 そんな中、麻取はどうでしょうか? 実は、警察当局全体がここまで悲惨な状況であるにも関わらず、麻取の検挙数は思いの他安定しているのです。皆様も御存知の通り、我が国の厚生局麻薬取締部は国内に12の拠点を設けており、日本全土に潜むお馬鹿なジャンキーどもへ無言の圧力を地道にかけております。特に、港がある都道府県では麻薬撲滅キャンペーン期間中であろうがなかろうが一切関係なく、常に麻取達の間で検挙数を競い合う熾烈な競争が繰り広げられていたりして、その士気たるや北朝鮮の兵士を既に超えているのでは? …と思わせるほど。
 いやぁ〜優秀です。さすがは選ばれた精鋭だけのことはあります。…ってことは、麻取の皆様はさぞかし凄い捜査手法をお持ちなのでしょう。下は興味本位で麻薬に手を出すお子ちゃまから、上はクラブや街頭に立つデンジャラスな外国人ディーラー、はたまた、一度の取引で数十キロ単位にも及ぶ麻薬を扱うであろう暴力団組織の方々まで、これら全部が『いつでも検挙できるぜ予備軍』として常に麻取の捜査対象に入っていると噂されているのですから。

 ついこないだも中年作家が大麻所持にて捕まっていました。後に、その中年作家から芋づる式にロックバンドのメンバーも捕まっちゃいました。あのような逮捕劇があると、我々のような一般人は「怖いなぁ…やっぱ隠密に捜査してるんだぁ…」と思うかも知れませんが、多くの場合において麻薬使用者逮捕の発端は『第三者による密告』なのが実情です。もちろん、街中を歩いている最中に運悪く職務質問に引っかかり、そのまま、所持検査されてヤバいブツが出てきたというパターンもあるでしょうが、残念なことにこのような検挙のされ方は麻取の手柄にはなりません。また、麻取と巡査クラスのお巡りさんは犬猿の仲であることも多く、何年にも渡って内偵をしていた人物をいざ検挙するとなって、手柄の取り合いになることも決して珍しくはないのです。
 麻取にしてみれば「お前等下っ端は巡回だけしとけばいいんだ!こっちの領域に入ってくるな!」と内心思っているわけで、逆に、お巡りさん達は「職務質問ついでの麻薬所持の検挙は俺らがいるからこそ出来ること!麻薬以外の犯罪には知らんぷりという麻取の体質こそがおかしいじゃないか!」と腸が煮えくり返っているといった感じです。
 そもそも、偶発的に犯人を検挙する職務質問のお巡りさんと違って、麻取はピンポイント検挙を得意とする組織。つまり、犯人検挙にかける意気込みが最初から段違いなわけですね。ましてや、生活保安課が保管している押収済みのネタなどが署内でなくなった日には「お前等…俺らが苦労して押収したブツで決めてるだろ?」と麻取も疑いたくもなるわけで……。そんなこんなで、どこまでいっても両者の間には鋼の確執があり、水と油が混ざり合うことは有り得ないのです。
 因みに、麻取の捜査手順は、過去に検挙した者の情報の中から信憑性が高いものと常習性が高いと思われる人間のみに的を絞ると言われています。尚、麻取は必要定数以上の検挙は絶対にしません。もし、今すぐにでも検挙できるであろうジャンキーが5名いたとし、その地域を管轄している麻取が2名の検挙数を必要としていたとしましょう。この場合、麻取は5名のうち3名は逃がします。嘘ではありません。本当です。
 こんなことを書けば「嘘だ!俺達は全員持っていかれたぞ?」という方もいるでしょうが、それは管轄麻薬取締部の検挙数が必要定数に達していなかったのでしょう。つまり、運が悪かったのです。実際に私の知人は所持していたにも関わらず、適当な理由(今は逮捕状がないから…とか、今は検査試薬がないので…といったもの)で解放されています。しかも同じ月に2度もです。職務質問のお巡りさんが相手ならこうはいかなかったでしょう。
 何故か? 実は、麻取の仕事というものは上司に報告する数字と検挙数さえ合致すれば、その後はノープロブレムな世界なのです。逆を言えば、麻取にとって最も恐れる事態とは『仮に、全国で麻薬撲滅キャンペーンが始まった時、確実に検挙できる存在がいなくなってしまえば俺達が仕事をしていないと思われてしまうじゃないか…』といった事態なのですね。俄かに信じられないこのような麻取の体質は今に始まったわけではなく、昔からの慣例行事みたいなもので、言わば、テストで100点を散発的に取るより、毎回確実に80点を取り続けることの方が、組織的な実益になっているということを如実に証明しています。
 今さら言うまでもありませんが、縦割り行政のお仕事というのは上司に報告する結果で全てが評価されてしまいます。もっと砕いて言えば『成績の数字』さえ良ければ、その行為全ては評価の対象となるわけです。ちょっと前に騒がれた北海道警察の拳銃摘発自作自演の例などはその証左となるもの。
 だからこそ麻取は必要以上の検挙が、引いては自分達の立場をも危うくしてしまうかも知れないと考えるのです。ここらへんが麻取は精鋭の集まりと言われる由縁でしょう。
 いやぁ〜良く考えていらっしゃる。ジャンキー達と自分達がお互いの存在を証明する存在だと彼らは自覚しているんですね。とても、お利巧ちゃんです。

 麻取の捜査手法は、過去に検挙したジャンキーの証言に基づいて対象に近づくのが一般的なのは前述の通り。しかし、未だに捕まったことのないジャンキーにとって他に気になることといえば『内偵捜査の期間』じゃないでしょうか。実は、内偵期間については、短いもので2ヶ月、長いのになると1年とかあるのだが、何故か不思議な事に1年以上の内偵捜査ともなると管轄が地元警察(つまり検察側)に移行する傾向が強いといえます。この理由については定かではないですが、有力な説として、捜査に一定以上の経費がかかる際にはお上のハンコの必要性が鍵という説があります。聞くところによると、お上の「ハンコと金は出すが口も出すぞ」という姿勢が捜査を難航させているらしい。
 しかも、捜査に参加する麻取は限られた人数しかいないので、人手が足りない時には自分の妻や子供、あるいは親戚や兄弟までも内偵捜査に協力させるなんてこともこの世界では普通の話。だから、対象を尾行する時には後ろだけでなく、横にいる女子高生も、前を歩いているオバハンも麻取の関係者だったりするわけです。つまり、バスなんかに乗った日にはその他の乗客全員が麻取であっても不思議ではないということでしょう。とにかく、彼らの内偵は安っぽい探偵みたいなものとは一線を画し、豪快な内偵を行ってくると知っておくべきでしょう。
 あと、重要なのが捜査管轄範囲というもので、自分達が管轄する地区と隣接する地区までが行動範囲になっている点。これは厳密に言えば規則に違反しているのだが、麻取同士の間では徐々に暗黙の了解となりつつあるようです。…とは言っても、幾つかの都道府県にまたがるようなジャンボ密売組織を検挙する時には現在でも非常に長い期間を必要としているわけで、手柄の取り合いに関するテリトリー合戦はまだまだ根が深いご様子。麻取側の足並みが揃わない為に無駄な時間だけが過ぎるという悪循環がここでも生じている。優秀な売人なら、これを逆手に取って3つの都道府県をまたいで活動すれば検挙される可能性も格段に低くなるかも知れません。大体「あそこに行けば必ず買える…」なんて噂が客に入るようなら、それは「そう遠くない日に捕まる…」と同じ意味なのですから…

 さてさて、それでは仮に麻取の内偵がうまくいって、見事に動かぬ証拠を掴んだとしましょう。更に、対象が複数の都道府県にまたがって活動しておらず、高飛びする危険性もなかったと仮定しましょう。
 こうなると、当然、翌日の早朝には逮捕状を持った捜査員が対象宅の玄関を取り囲み、激しいノックで叩き起こすだろう…と、我々は予想しがちですが、なんとなんと、麻取はそんなことはしないのです。詳細を書けば、対象が売人(供給側)であった場合には、証拠を握っても逮捕状はすぐには取りません。まずは上司に報告です。そいつを検挙するか泳がせておくかは全て上司の判断なのです。
 ただし、対象がただのジャンキー(需要側)であるなら話は別です。上司の許可を受けずして即刻逮捕されること請け合いです。
 この違いは一体全体何だと思いますか?
 先にも説明したように、麻取は定期的に検挙数を稼ぐため、市場には『いつでも挙げれる馬鹿』を何人か泳がせておくのが常套手段となっています。そして、麻取は犯人を次のように評価していたりします。

三つ星=巨大なシンジゲートのボス

二つ星=顧客を持つ売人

一つ星=ジャンキー

 はい…もう気付きましたね? そう…麻取にしてみれば、今後も長期に渡ってジャンキーを製造して、世にばら撒いてくれるであろう供給側の存在は生かさず殺さずで放置するマニュアルが存在するわけ。これは人口が過密している都市部であればあるほどその傾向が強いと言っていいでしょう。影じゃ裏取引なんかバンバンやってんだから…。

 例えば、最近になって起こった事件では下記のようなものがあります。

 
千葉市若葉区の墓地駐車場で、飲食店アルバイト、石橋裕子さん(16)の焼死体が見つかった事件で、 千葉東署捜査本部は5日、石橋さんが勤務していた同区にある飲食店の男性経営者に対して、 覚せい剤取締法違反(使用)容疑で逮捕状を取った。 捜査本部は石橋さんの事件に関連し、経営者から事情を聴いていたが、その過程で、覚せい剤使用の 疑いが浮上した。捜査本部は、焼死事件との関連については、慎重に調べている。 これまでの調べでは、石橋さんは1日未明まで同店で働いた後、同日午前3時半ごろから行方が 分からなくなり、同日朝、約3キロ離れた駐車場で遺体で見つかった。(10/05)

 これなんて、もぅ…その典型ですね。何も考えずにこの記事を読んでいる馬鹿は「ほぉ…経営者も悪いやっちゃのぅ…」と思うだけかも知れません。
 そう思ったなら貴方はアホですね。事実はこうです。
 実は、前々からこの経営者は麻取のジャンキーリストに入っていて、重要参考人から別件の犯人に格上げされただけの話。つまり、この経営者はずっとずっとずぅぅぅっと前から目を付けられていたのです。きっと、千葉県警はこの経営者が多くを語ろうとしない為に、あえて過去の余罪を持ってきて、最終的には「お前が今回の殺人事件について全部正直に喋れば、シャブの件は悪いようにはしないぞ?ん?お前どうする?」ってな取引に持ち込みたいんでしょうな。その証拠と言っては何ですが、翌日の新聞には下記のように進展がありました。

 
千葉市若葉区の墓園駐車場で1日朝、同区千城台東2丁目、飲食店アルバイト石橋裕子さん(16)が殺害され遺体を焼かれて見つかった事件で、千葉東署捜査本部は6日、裕子さんの戸籍上の夫で同区千城台西2丁目、運転手石橋広宣容疑者(22)と、同区内の少年4人を、裕子さんの遺体を焼いた死体損壊容疑で逮捕した。
 広宣容疑者のほか逮捕されたのはいずれも若葉区に住む無職(16)、無職(17)、土木作業員(17)、高校3年生(18)で広宣容疑者とは遊び仲間。同区内の同じ市立中学出身という。捜査本部によると、5人は容疑を認め、広宣容疑者を除く少年4人は「広宣容疑者とともに、裕子さんを殺害した」という趣旨の供述を始めているという。

 調べでは、広宣容疑者らは1日未明、同区貝塚町の墓園駐車場で、裕子さんの遺体にライター用オイルをまいて火を放ち、ほぼ全身を焼いた疑い。
 裕子さんは顔や頭の全体を、頭蓋骨(ずがいこつ)の陥没や亀裂が生じるまで殴られ、脳障害で死亡し、その後に、火を放たれたとみられている。遺体が発見された駐車場は墓石などに使われる石材置き場になっており、血痕がついた凶器とみられる石材が多数あり、中には、重さ60〜70キロのものもあったという。 広宣容疑者は逮捕前の取材に対し「事件当日の1日未明、裕子に呼び出され、車に乗せた。午前3時20分ごろ裕子の自宅近くのモノレール駅付近で裕子を降ろし、すぐに交際中の少女宅に戻って寝た」とアリバイを主張。捜査本部にも同様の説明をしていたという。


 しかし、同本部の調べで、同日午前4時すぎ、同市内の24時間営業のスーパーなどで、広宣容疑者と少年らがライター用のオイル十数缶を購入したり盗んだりして、防犯カメラにとらえられていたことが5日に判明。5人から事情を聴き、供述通りの場所で捨てられたオイル缶を発見、押収した。 同本部は広宣容疑者らが遺体を焼いた動機について調べるとともに、裕子さん殺害についても事情聴取する方針。 (10/06 10:23)

 こんな偶然はありません。経営者を覚せい剤使用で逮捕した翌日に、本件の殺人犯が逮捕されるなんてのはどう考えても裏取引による供述が決め手となったと考えるべきでしょう。
 麻取があえて捕まえないジャンキーや売人どもは、このように別の使い方がちゃんと残されているからなんですね…。

つづく

・来たるその時に備えての警察対応テク

『悪さをする輩は、常に最悪の事態を想定し、行動をする』
 この考え方はヤクザ組長の息子であり、過去に警察当局からグリコ森永事件の犯人ではないかと疑われた宮崎 学さんのものです。
 基本的に悪さをする輩にとって、自己の逮捕というものは最悪にして最凶のケースの1つであることには違いない。だから、どんな小物でも一生懸命に防御線を引いておこうと考えるわけ。逮捕というものは、悪さをする輩だけでなく一般人にとっても最近は身近な存在となりつつあるわけで、既に過渡期を通り過ぎた感もあるが、理解しやすい例では『痴漢冤罪のケース』などその典型であろう。こちら側が何もしていなくとも、いきなり何の予兆もなく事件の当事者にされてしまうことが今の日本ではちっとも不思議ではないのだ。仮に、貴方が「俺は何も法に触れる事はしてないから、警察なんて無関係…」という人であったとしても、今後の日本においては『いつ』『どこで』『どんな理由で』などが一切関係なく、貴方自身が覚えの無い事件の当事者になる可能性は決してゼロではないということになる。
 これは怖い。めちゃ怖いではないか。

 こんなご時世に誰がしたのだろう? いやいや……こんな時代だからこそ、どのような状況に置かれても警察当局相手に一歩も引かない対応をできるよう、ココに書いてある内容を是非とも読破してもらいたい。
 たかおこと私は、過去に色々な逮捕経験者と知り合い、現在も脈が生きている仲の者も少なくはないのね。暴力団関係者、元自衛隊員、元警察官、主婦、学生、などなど数え出したら切りがないくらい。でも、この逮捕経験者達が皆同じように口を揃えて言う言葉を軽視する気にはなれないでいる。その言葉とは…

 -----警察に逮捕され、拘留された時の辛さ、不安、孤独さ、
                  これらは実際に経験した者にしかわからない…-----

 みぃ〜〜〜〜〜んなこう言います。マジ。
 先の見えない将来だけでなく、いつ、どうすれば、自分がこの拘留から解放されるのかわからないという状態は、逮捕された人間の精神にとっては極めて苦しいものなのでしょう。そんな不安定な精神状態だから、結果、取調官の甘い言葉に乗せられて虚偽あるいは不利な調書を勝手に作成されてしまうのかも知れません。
 もし、不利な調書が作成されると被疑者は公判で極めて窮地に立たされることとなり、最悪の場合には必要以上に社会復帰が遅れることに繋がってしまう。だから、シャバにいるうちに『逮捕』→『拘留』→『取り調べ』→『起訴』→『公判』という流れを押えながら、その場面、その瞬間にどのような対応が最も自己の実益になるのかを考えておく必要があるわけです。どんな時だって、心構えさえ出来ていれば自己満足くらいは生んでくれるもの。
 来たるその日を笑顔で迎えるために、警察対応テクのデータベースを今から脳内メモリーに蓄積しておいて損はないと思いますよ。

・逮捕
 まずは逮捕から見ていきましょう。ジャンキーや売人にとって逮捕とは身近にある存在であり、常に意識しているものです。逮捕には『通常逮捕』『緊急逮捕』『現行犯逮捕』の3つがあり、その場面によってどれかが適応されます。
『通常逮捕』というものは、被疑者が罪を犯したという疑うに十分な理由があり、その被疑者が逃亡や証拠隠滅を行う恐れがある場合に適応されるもの。特徴としては逮捕状を見せられてから手錠をかけられるアレである。
『緊急逮捕』とは、3年以上の懲役の罪、無期、死刑、などに該当する罪を犯したと疑う理由が十分にあって、裁判官に逮捕状の請求が間に合わない時に行われるもの。
『現行犯逮捕』は、現在、犯行に及んでいる者や犯行終了後の者を逮捕すること。麻取の囮捜査などはコレに該当するのね。
 以上3つの逮捕のいずれかによって、世の馬鹿どもは連行されるのである。ここから先は、警察署など捜査機関に連れて行かれて先の見えない拘留が待ち受けることになる。
 しかぁぁぁぁぁぁし! 逮捕されパトカーに押し込まれ、半泣き状態の貴方が今この瞬間にしないといけないことがある! それは、声高に弁護士を呼ぶ姿を周囲の人間に見せつけること。
 そもそも、警察官や検察官は法律のプロフェッショナル。こんなのを相手にジャンキーや売人が立ち向かったところで何も変わらない。むしろ、いいように扱われ必要以上の刑事責任を背負ってしまうことにもなりかねないだろう。また、殆どの馬鹿は逮捕直後に気が動転し、パニックになっているのが普通なので、客観的な第三者のアドバイスを受けながら、自分が今どのような立場にいるのかということを明確に判断する必要があるといえる。
 だからこそ、貴方の為だけの存在である弁護士が必要なのだ。…ってな訳で、普段から弁護士のフルネーム、事務所の所在地、電話番号を即答できるように暗記しておきましょう。これだけで警察官は心理的にやりにくくなりますから。
 あ…ついでに書いておくけど、逮捕されて拘留が決まるまでの間は弁護士以外とは面会させてくれませんのであしからず。
 まぁ…ジャンキーどもを助ける為に遠方から駆けつける顧問弁護士なんざこの日本にはいないと思うので、多くの場合は当番弁護士ということになるわけですが、それでも24時間いつでも呼べるというのは有り難いことこの上ない。
 …なので、必ず当番弁護士を利用しましょう。

・逮捕後の数時間
 さてさて、逮捕された貴方はパトカーの中で「早く弁護士を呼びやがれ〜このカスぅ〜」と暴れながらも警察署に着いてしまいます。両手には手錠をかけられ、腰紐を結ばれ、両脇を固められ、強引に個室へ入れられてしまいます。
 まだ、弁護士は来ません。いや、それどころか警察は当番弁護士を本当に呼んでくれたのでしょうか? それすら曖昧です。不安ですよね? しかも、そんな不安な貴方に追い討ちをかけるかの如く、一つのハードルが迫ってくることになります。実は、いきなり取り調べもどきのような行為が始まるのです。
 多くの場合、このような場面で警察は、とにかく貴方から都合の良い調書を早く取り、その後に当番弁護士と接見させようと目論んでいるに違いありません。これは要注意です。ここで貴方が何をすべきかはっきりと書いておきましょう。

 今、貴方は絶対に警察の取り調べに応じてはいけません!

 どんな怖い台詞を吐かれようと、どんな甘い言葉を耳元で囁かれようと、貴方は絶対に無言であるべきです。どうしても何か言い返したいという方は、何を言われても「早く当番弁護士を呼んでください」とだけ答えるようにしましょう。取調官がお腹で押してきても「早く当番弁護士を呼んでください」と答えるだけ。机を叩こうとも「早く当番弁護士を呼んでください」と答えるだけ。弁護士が来るまでは根性を見せましょう。
 考えてもみて下さい、そもそも、やる気の無い当番弁護士が駆けつけた時に、既に取調べが終わり警察主導で作成された調書が完成していたとすればどうですか? 最初から低い当番弁護士の士気はさらに落ちるところまで落ちるのは必至。こうなると何の為に呼んだかわかりませんよね? なのでウンチを漏らそうが、涙を流そうが、絶対に「早く当番弁護士を呼んでください」以外は答えないこと。
 しかし、相手は警察。鋼の決意である貴方の牙城を崩すのが半端じゃなくうっまぁぁぁぁぁい。例えば「君からは事情を聞きたいだけ…別に逮捕されたんじゃないんだから弁護士を呼ぶ必要はないよ」とか平気で言ってきます。「じゃあこれは任意同行か?」と返せば「その通り」とこれまた平気で嘘を言ってくる始末。どこの馬鹿が任意同行で手錠をかけられるというのでしょうか。でも気が動転しているジャンキーはこんな嘘でも上手く乗せられてしまうのが実情なのね。
 もし、この時に貴方の両手が自由であり、メモ用紙と筆記道具を持っていたなら『●月●日●時●分 ●●法律事務所の●●弁護士を至急呼んでください』とメモ用紙に書いて、取調官の前に見せつけるのも悪くないでしょう。もし、破られたら何度でも書き直して下さい。
 実は、口で言った言わないの押し問答では、後で取調官にどうとでも誤魔化されてしまう可能性が高い。また、警察は形として残るものに意思表示を書かれる事を非常に嫌がる傾向があり、このようなメモ用紙を用いた方法は「こいつは警察のやり方知ってるな…」と心理的に弱らせる効果が絶大なのです。特に捜査2課の取調官にこれやると目が本気になるようです。
 ここで警察が根負けした場合には「表の公衆電話で自分で呼べ!ボケ!」と言われることになる筈。つまり、最初の喧嘩は貴方の勝ちといって良いでしょう。その後は弁護士が来るまで大人しくして、弁護士が到着したら全てを話して何をすべきかを聞いてその指示に従いましょう。この頃になると気も落ち着いていることだと思います。

・拘留
 ジャンキーや売人が逮捕された場合、弁護士の登場で貴方が釈放されることは殆どないと思っていい。それどころか、当番弁護士だって「釈放は無理だ」とはっきり言う筈。
 勘違いして欲しくないのは、当番弁護士を呼んだのは必要以上の罪状を背負わされない為であって、貴方の犯した罪を完全に消し去る、あるいは大きく軽減させる為ではない。例えば、自己使用のために所持していたネタを保存用にパケ詰めしていたのをいいことに、検察側が「それは営利目的のために売ろうとした行為に違いない」などと解釈されたとしよう。そして、当番弁護士にこの事を伝えずに公判が始まった場合、貴方は本来なら初めての麻薬所持で執行猶予がつく筈なのに、営利目的、又は、販売目的の為の所持として初犯でも確実に実刑を食らうことになるだろう。
 言うまでもないが、この違いはとても大きい。…MEGUMIの乳より大きい筈だ。

 警察は被疑者を警察署まで連行すると、原則的には被疑者に弁解の余地を与え、身柄を拘束する必要がないと考えられる場合には、直ちに保釈しないといけないわけだが、ジャンキーや売人の多くは現場にてネタと一緒に現行犯逮捕されているので釈放なんて絶対に有り得ない。
 そうなると、警察には被疑者の身柄拘束が必要となるわけで、48時間以内に必要書類と証拠物を添えて検察官へ送致する流れとなる。これを受けた検察官は、またまた被疑者に弁解の余地を与え、今一度「こいつは本当に身柄を拘束する必要があるのか?」と考えてくれるわけ。ただし、百発百中はそのまま決定が覆ることはない。
 …で、検察官も「こいつはやっぱ拘束が必要だわ」と思えば、24時間以内に裁判官に正式な拘留を請求するか、起訴するのである。検察官にそれ以外の選択肢はなく、あるとすれば釈放だけだ。
 そして、裁判官が検察官の拘留請求を認めると、被疑者は最大10日間に渡り、身柄を拘束されることとなる。所謂、悪名名高い『代用監獄』での生活が始まるわけね。
 さらにさらに、10日間の拘留が終わった後でも、警察の拘留延長申請で10日間の身柄拘束の延長が認められているのである。
 …ってことは、逮捕されると警察官が検察官に送致するまでの48時間に加えて、検察官が裁判官に拘留を請求あるいは起訴するまでの24時間の計72時間…つまり丸3日間は当番弁護士としか面会できないということになり、その後の20日間は代用監獄にて身柄を拘束されてしまい、全部で約1ヶ月間を無駄にすることになるってこと。これはギャンキーにとっても、サラリーマンにとっても死活問題だろう。なぜなら、サラリーマンは会社を1ヶ月も休めないし、家賃の支払いや光熱費の支払いも延滞することに繋がるからだ。ジャンキーにしたってネタが切れてくると定期的に投与してやんないと持たない。
 しかも、身柄を警察機関に24時間監視体制の下に置かれ、来る日も来る日も厳しい取り調べ、代用監獄に戻ればゴツイ犯罪者にいびられる毎日。これじゃ、被疑者の気持ちなんか休まる暇もない。それでなくとも、ジャンキーや売人というのは代用監獄ではコケにされやすい存在なのだから。まぁ…障害者をレイプしたようなアホが同じ房にいれば、そいつが最も底辺に位置するわけですが…そんな奇遇はまずないと思っていいでしょう。とにもかくにも、同じ房の他の被疑者達の罪状は、恐らく殺人罪や放火罪といった強者の看板を所持していると思います。犯した罪の大きさが即ち地位になる代用監獄では、ジャンキーや売人なんて無銭飲食した浮浪者と等価だと知っておきましょう。ひぃ…


つづく

・インフォーマー(捜査協力者)の小手先捜査に注意せよ

 「売」を長くやっている者は、その取引回数に比例して、日ごとにセキュリティ面での怠慢が目に付くようになると昔から言われています。
 売人の寿命は平均して1年と言われており、どんなに長くやっている人でも5年以上という人はいないでしょう。本人にしてみれば「もっと長くやりたい」と思っていても、必ずボロが出て警察のお世話になり、それがきっかけで売人をやめるケースが最も多いとか…。
 まぁ、早かれ遅かれ追われている身である以上は絶対に安息の日々は訪れない訳で、売人をここらでやめるか、それとも、このまま売人を続けるかのターニングポイントは、皮肉な事にその売人自身の逮捕がきっかけとなるようです。
 しかし、同じ逮捕されるにしても売人歴1年でパクられるのと、3年でパクられるのでは大きな違いがあります。この違いは、それまでに稼いだ金額も去ることながら、パクられ方によっては出所後の行動に変化が見受けられるというものです。もし、過去に同じような罪で2度や3度捕まった売人なら、4度目は麻取にマークされていない限り捕まりにくくなるでしょう。それもその筈、捕まる度に警察の捜査手法や麻取の接触パターンを体で覚えてきた訳ですからね。
 ってことは、同じネタを売る売人であっても、その販売手法やコンタクトの取り方を見れば、その売人がどこまで慎重な奴なのかがある程度は計れるということです。
 例えば、逮捕された経験の無い売人なら、街頭監視カメラがあるような場所とも知らずに、無防備な状態で路上で立っているでしょう。そして、いつ声を掛けられてもすぐにネタを渡せるようにポケットに大量のネタを仕込んでいる筈です。
 こんな馬鹿な売人でも1度捕まれば「ネタを所持していたから言い逃れできなかった」と気付き、その後はネタを持たずに携帯電話だけで路上に立つはずです。
 こうやって売人は賢くなっていくのですが、残念な事に一度でもパクられた売人は、必ず麻取の『こいつらは絶対ネタにまた手を出す奴リスト』にメモられてしまうこと請け合いなので監視の目が緩むことはまずありません。
 しかし、逮捕歴のない売人が、前述したような何度も逮捕歴があり、尚且つ、警察の捜査手法や麻取の接触パターンを熟知している者と繋がっていたとすれば、それは捜査上において極めて大きな障壁となります。
 面が割れている麻取は売人との接触にインフォーマー(協力者)を使うことで有名ですが、このインフォーマー自身が麻取に利用されていることを知らないケースも最近では多いようです。たかおは、過去にインフォーマーと思しき人物と何度か出会ったことがありますが、そのインフォーマーは金銭面的な問題を解決してもらう代わりに、売人との接触を第三者からお願いされている感じを強く受けました。ジャンキーにとって、ネタの代金を第三者が払ってくれるなんてこれほど嬉しい事はないでしょうし、その条件として売人との直接取引きをして欲しいと言われても何ら疑問ではありません。ただ、ご存知の通り、たかおは『お互い顔合わせ無し』を徹底している身なので、どんなにお願いされても、あるいは、どんなに大量に購入しようとしても、また、どんなにチップを加えてくれたとしても、絶対に直接取引きはしないのね〜ん。何と言っても、売人の検挙パターンの8割は取引時によるものですからね。
 ここまで徹底していると殆どのインフォーマーは撤退させられますが、中には骨のある奴もいたりします。骨のある奴は例えばこんなことをしてきます。30000円の代金を全て1000円札で支払ったり、しかも、その1000円札をよく見れば、一枚一枚小さな印が付いていたりと……一体全体何を企んでいるのでしょうか?
 頭の良い方はもうお気付きですね? そうです…これは、売人に渡った金の動きから売人の個人情報を探ろうという麻取の嫌らしくも可愛らしい、それでもって痛いげなトラップなのです。多くの場合、売人は組織や組に上納する際には客から受け取った現金をそのまま渡しますし、組織の方でも売人から汲み上げた現金は纏めて保管しているでしょう。ひょっとすれば、翌日にはボスの個人口座に預貯金として入っているかも知れません。警察と比べて捜査権限が広く認められている麻取は、事前にメモっていた「印のある1000円札の番号」を全国の金融機関へと一斉に検索をかけます。実際、金融機関に設置されているATMは驚くべき性能を秘めており、ATM利用者の指紋を1日に6000人分記憶できたり、タッチパネルの指紋もほぼ無制限に記憶できたり、必要とあらば、タッチパネル上に付着した指紋を一枚一枚剥がすことも全部自動でやってくれちゃったりします。よく盗んだキャッシュカードでATMから現金を出そうとして、そのまま御用になる馬鹿がいますが、あれなんかは警察が優秀なのではなく、ATMが優秀なのです。盗難届の出されたキャッシュカードは金融機関側で簡単に使用不可にできますし、しかも、この場合、ATMの前に来た犯人に対して、決定的な指紋を採取するまでATMは「…もう一度始めから操作を行ってください」とそれらしい応答を繰り返す優秀っぷり。いやはや…脱帽ですな。
 ここで、はっきりと明言しておきます。ATMは当局の捜査道具の一つと思え!
 こんな優秀なATMが麻取の道具として、売人の印の付いた1000円札を狙っているとすれば、貴方がその1000円札を預金した時点で、金融機関から当局に通報が入ることは間違いありません。また、特に新札の場合には、そのお金が多くの国民の手に渡っていない為、お札自体に売人以外の指紋はついていないことが多いでしょう。こうなると、一気に貴方の個人情報と状況証拠が当局の手に渡ることになるんですねぇ。つまり…おしまいってことです。
 いやぁ…怖いですねぇ〜………こんな怖いATMに近づくくらいならタンス預金してた方がずっとずっとずぅぅぅぅぅぅぅぅぅっとマシですわ。来年には年金滞納者の預貯金も勝手に差し押さえされるって言うし………あぁ〜くわばらくわばら。